養護教諭とは小・中・高校に配属されるいわゆる「保健の先生」です。
学生時代、保健室で話を聞いてもらった方も多いのではないでしょうか。
ここではこどもの心と体を守る仕事、児童分野での看護師さん養護教諭についてまとめてみました。
どういった仕事内容なのか、大変な点ややりがい、資格取得の方法などをすべて紹介していますので是非参考にしてくださいね。
目次
1.養護教諭ってどんな職業?
1.1.どんな仕事をする職業なのか?
子どもたちの健康管理にあたる仕事で、一般的に「保健室の先生」と呼ばれています。
保健室での応急処置だけではなく、児童や生徒の健康観察や身体測定の実施、保健指導、環境衛生の検査など学校全体の保健管理を行なっています。
どのクラスにも所属はしませんが、すべての児童や生徒の保健、環境衛生の実態を専門的な立場から的確に把握し対応する必要があります。
児童・生徒全員の担任と言えるでしょう。
1.2.養護教諭の1日
7:30 |
登校中や部活の朝練などで具合が悪くなったり、怪我をしたりする子ども達の為に、少し早めに出勤します。 |
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8:00 |
職員会議に出席します。 |
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8:30 |
授業時間中は体育での怪我の処置や体調が悪い生徒をベッドで休ませ様子を見ます。 |
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12:00 |
休み時間は、子ども達が押し寄せてきますのでゆっくり食事を取る事はなかなかできません。また昼休みは怪我の応急処置に追われる時間でもあり、他にも食物アレルギーをもつ子どもが昼食でショックを起こしたりとバタバタすることが多いです。 |
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13:00 |
昼からの授業が始まります。食事を取りつつ事務仕事をこなします。 |
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15:00 |
放課後も生徒の悩み相談に対応しつつ事務仕事を行います。 |
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17:00 |
1日の締めくくりに日誌を作成します。 |
放課後に部活動や図書室で自習をする生徒、教室で友人とおしゃべりをする生徒など、たくさんの生徒が居残りをしています。
最終下校までは何かと人の出入りが続きますので勤務終了時刻の17時頃に帰路につけることはほとんどありません。
1.3.養護教諭の仕事内容
①健康管理
身体測定や視力・聴力測定など、学校内の健康診断の計画立案や準備を行います。
定期検診では、医師の手配を行い、当日は診察結果を書き込むなど医師の補助を行います。検診結果が思わしくない生徒には、経過観察をしていきます。
日常では体調不良の生徒を保健室で健康観察するほかインフルエンザなどの伝染病を予防したり、食事・睡眠などの生活習慣を調査したりします。
また、遠足や修学旅行などの校外行事に同行したり、運動会やマラソン大会などの体育関連の行事において児童・生徒の健康を管理します。
②保健指導
保健だよりや職員・保護者向けの配布物、掲示物を作り情報提供や注意喚起を行います。
また学級活動やホームルーム活動で学級担任が行う保健指導の助言や資料提供、教材作成の協力、学級担任との協力授業なども果たします。
性教育については、担任や体育科の教諭と連携して授業を行うこともあります。
③救急処置
傷口の消毒や発熱時の観察など、児童・生徒のケガや病気に対して応急処置を行います。
養護教諭は医師ではないので医療行為を行うことはできませんが、児童・生徒の状況を見て、病院に連れて行く、救急車を呼ぶなど的確に判断する必要があります。
また、ケガをした児童・生徒の保険申請を行うこともあります。
④健康相談
保健室を訪れる児童・生徒の身体や健康について相談に乗ります。
病気を抱える児童・生徒には学校生活を送る上での注意事項をアドバイスするだけでなく、担任の教諭に状況を伝えたり、周囲の子どもたちに理解を得られるように説明をしたり、児童・生徒が安心して学校生活を送れるように働きかけをします。
また体調不良の背景には心の問題を抱えている場合もあります。子どもが発信するサインや変化にいち早く気づくことが大切です。
⑤心のケア
身体に関することだけでなく、心に関する相談に応じます。
保健室に行って話をするだけで安心する子どもから、何らかの理由で教室に入ることができず、保健室で学習する「保健室登校」をする子どもまで、子どもたちの悩みや状況はさまざまです。
中には、いじめによって深く傷ついている子どももいるので、こうした児童・生徒たちの良き相談相手として気持ちに寄り添い、彼らが安心して学校生活を送れるように支援することも、大切な仕事の一つです。
⑥学校環境衛生調査
水質検査や空気検査などを行い、学校内の衛生状態に問題がないか確認します。
また教室内の照明の明るさを測定し、勉強に適した環境であるかをチェックしたり、プールの水質を確認したりもします。
文化祭などの模擬店を出店する場合には衛生面の確認や管理を行うこともあります。
2.養護教諭になるには
養護教諭になるには養護教諭の免許状を取得する必要があります。
免許状は大学・短大・専門学校で所定の養護と教職の単位を取得することで与えられます。
看護師から養護教諭になる場合は、文部科学大臣が指定した指定教員養成機関で半年から1年間ほど学べば免許状を取得することができます。
その後都道府県や私立学校で行われる教員採用試験に合格すれば養護教諭として働くことができます。
2-1. 養護教諭免許状の違い
免許状には一種、二種、専修の3種類が存在します。
4年制大学の養護教諭養成課程で取得できる資格は1種免許、短大や専門学校で取得できる資格は2種免許、大学院で取得できる資格が専修免許になります。
看護師の資格を持っている状態で養成機関に通えば一種免許状を取得することができます。
免許の種類によって任される業務や行える仕事に大差はありませんが校長や教頭先生などの管理職になるには専修免許が必要になります。
養護教諭の免許資格を取得することのできる学校のリストになります。
2-2試験の難易度
養護教諭採用試験の難易度は教員採用の中では高い方になります。
以下は文部科学省調査による養護教諭採用試験受験者数、採用者数、採用倍率のグラフになります。
養護教諭採用試験の受験者数は増加傾向にあります。
養護教諭採用試験の採用者数は平成27年度試験の採用者数がここ10年間で最多の1,338人となっていますがそれ以前は緩やかに増加しており平成24年をピークにやや減少していました。
養護教諭採用試験の採用倍率は年々下がっており、理由として、採用者数より受験者数の増加率が高いことがあげられます。
3.養護教諭に求められる役割
ケガ、病気の応急処置や健康診断の実施により児童・生徒の健康を保つこと、水質検査や照度検査により校内の環境衛生を保つこと、そして生徒の心のケアが養護教諭の役割です。
生徒の相談に乗り、症状の原因が心の問題なのか、身体的な問題なのかを判断し、適切な対応をすることも養護教諭の大切な役割となっています。
また養護教諭には児童虐待を早期に発見する役割も期待されています。
児童虐待の可能性が見られた場合は、被害を食い止めるため関係機関へ相談します。
児童・生徒の相談窓口として、子どもの様子に不自然なところがないか、虐待の可能性がないかを見極めることが大切です。
このような社会的な背景の中、子どもの健康を守るために養護教諭の役割はますます重要になっています。
4.給与や待遇は?
4-1.公立学校勤務
公立学校に勤務する場合は地方公務員として各自治体の給与規定に従って支給されます。
職務の複雑さや難易度、責任の度合い、職務経験年数などが反映された「給料表」というものが地方公共団体ごとに定められておりそれに基づき給料が決定されます。
初任給は20万円前後となっており、短大卒に比べ、大卒が2万程多くなります。
さらに、「期末・勤勉手当」などのいわゆるボーナスの支給に加え、退職時には退職手当の支給もあります。
正規雇用であれば、年齢や勤続年数に応じて年収は上がっていきます。
急なリストラや給料カットなどの心配がないので、安定して収入を得ることができます。
4-2.私立学校勤務
各学校の規定に基づき支給されます。
初任給は公立学校と変わらず20万円前後となっていますが、生涯年収で見ると公立学校のほうが高い傾向にあります。
年限付きの常勤講師からスタートし勤務状況によって正規採用となる場合や契約職員など、学校によって雇用形態はさまざまなので、採用試験を受ける際は毎月の給料、ボーナス、退職金など、その学校の待遇をきちんとチェックするようにしましょう。
子どもたちが帰宅した後にも、健康診断の準備、掲示物の制作、事務作業、職員会議などを行う必要があり、残業が多い上に学校行事により、休日出勤もあり得ます。
一般的には収入が多いと言われますが、業務量の多さや勤務時間の長さ、サービス残業などを考慮すると、給料が高いとは言えないかもしれません。
4-3.結婚や育児との兼ね合い
仕事と育児の両立は本当に大変なことです。
子供が小さいうちはすぐに熱を出すので仕事を休むことが増え職場で気まずく感じたり、子供に寂しい思いをさせているのではと不安になったりと精神的にもしんどい思いをしているママも多いのではないでしょうか。
正規採用の地方公務員は、子どもが3歳になるまで育児休業を取得できます。
育児中は就業時間を短縮して勤務することが認められているので、子供との時間を確保しつつ働くことが可能です。
また熱が出て保育園に預けられない、お迎えに間に合わないなどどうしても仕事を抜けることができない場合は病児保育室や自治体のファミリー・サポート・センター事業などを利用しましょう。
仕事と家庭を両立するためにはママが抱え込みすぎずにこのようなサポートを積極的に取り入れていくことが大切です。
5.養護教諭のやりがい
5-1.子供たちの健康を守る
子どもたちは成長過程の大切な時期にあります。
正しい生活習慣を身につけ、健やかに日々を送れるよう指導することは、子どもたちの今後の人生にも大きくかかわっていくことになります。
子どもたちの豊かな成長に貢献できることは大きなやりがいにつながります。
5-2.全校生徒に頼られる存在
養護教諭はどの学年やクラスにも所属せず、全児童・生徒から頼りにされる存在です。
基本的に養護教諭は各学校に1人のため、校内の子どもたち全員と触れ合いながら仕事ができ、皆から頼りにされることは、養護教諭ならではのやりがいです。
5-3.子どもが笑顔に
保健室を訪れる子どものなかには、ケガや病気だけでなく、悩みを聞いてほしいといったこともあります。
だからこそ担任の先生や保護者には見せない一面に触れることができます。
そうした児童・生徒たちと向き合って話をする中で、表情が徐々に明るくなり、笑顔を取り戻してくれた時はやりがいを感じる瞬間です。
6.養護教諭のたいへんなこと
6-1.膨大な仕事量
ほとんどの学校では養護教諭が一人しか配置されていません。
そのため子供の健康相談、健康管理はもちろんのこと、教育相談、カウンセラーとの連携、家庭訪問、研修の企画・実施、給食に関する仕事、保健・安全指導、保健・安全行事の企画および実施、その他事務作業などを一人でこなさなければなりません。
特に健康診断に関しては生徒だけでなく、教職員の諸手配も養護教諭の仕事なので膨大な仕事量となります。
書類の多くは個人情報が記載されており、紛失・盗難に備え持ち帰りはできないため自宅で仕事をすることもできず勤務終了時刻に帰宅できない日が続きます。
6-2.子供の健康を預かる責任の大きさ
児童生徒の健康管理は、養護教諭の大きな仕事の1つです。
児童・生徒が怪我をした時は、養護教諭は速やかに対処しなければなりません。
また最近はアレルギーを持っている児童・生徒も多く、発作を起こしてしまった時は、迅速かつ正確な対処と医療機関との連携が求められます。
このように子供の命に関わる仕事内容であるため、判断を誤れないという大きなプレッシャーがのしかかることも多々あります。
6-3.心のケアの難しさ
子供の精神的な健康管理も養護教諭の仕事の1つです。
子供の心のケアはやりがいを感じると同時に、難しいところがたくさんあります。
心に傷を負った子供に対して、無責任なアドバイスを言うわけにいきませんので、時にはカウンセラーとの連携が必要となってきます。
こういった子供が相談しやすいような空間を作るために、常に明るく、余裕のあるように見せていかなければならないことも養護教諭の大変なところです。
7.養護教諭にはどんなタイプの人が向いているのか?
7-1.全体を把握・観察する力
養護教諭は全児童・生徒の担任という役割を担っています。
そのため、常に全児童・生徒や学校全体の状況を把握する力が必要となります。
また子どもたちのちょっとした変化にも気づける観察力も求められます。
7-2.コミュニケーション力・包容力
体調不良や悩みを抱えている生徒・児童と接する機会が多いので、子どもたちとの会話の中で解決策を導き出すコミュニケーション力が重要です。
特に心のケアは養護教諭の大切な役割であるため、子どもたちが安心、信頼して相談できる親しみやすさ、やさしい人柄が必要になります。
7-3.冷静な判断力
全児童・生徒を見る立場である為、一部の生徒・児童に深入りしすぎることはできません。
解決策に正解がない複雑な問題や、踏み込んだ対処ができない場合も多いのである程度の距離を置き、必要に応じて担任の教諭や専門家に引き継ぐことができる冷静さが求められます。
7-4.連携する力
養護教諭は、さまざまな人と協力して問題解決に取り組みます。
問題を抱える児童・生徒については担任教諭と情報交換する中で解決策を見出さなければなりません。
学校内で解決が難しい場合は、児童相談所や医療系の専門機関など外部の関連機関と協力しながら対応する必要があります。
連携できる人脈を築いておき、いざという時にスムーズに対応する力が必要となります。
7-5.管理能力
養護教諭は基本的に学校に1人しか配置されません。
そのため業務管理やチェックはすべて1人でやらなければなりません。
学校の全児童・生徒から先生の分まで全て管理するのですから、関連する資料や書類は膨大な量になります。
そうした資料整理などの業務に追われていては、子どもたちとゆっくり向き合うことができません。
子どもたちが相談しやすい雰囲気作りのためにも、資料整理や業務管理を効率よく行う能力が必要になります。
8.養護教諭の将来
少子化により学校の数が減る傾向にはあるため養護教諭の採用定数が爆発的に増えるということは考えづらいのが現状です。
また、最近ではいじめなどにより不登校や心の悩みを抱える子どもが増えており、1人の養護教諭にかかる責任や負担は大きくなっています。
養護教諭の1校複数配置の拡充を望む声も上がっており、その立場もこれまで以上に高く評価されていくと考えられます。
さいごに
全生徒の心と体のケアを一人で抱えるのは大変な仕事ですが、大きなやりがいを感じられる仕事であり、子供が健やかな学校生活を送るためには欠かせない存在です。
子供の健康を守る仕事であることから、プレッシャーを感じる場面もありますが、そのプレッシャーはやりがいへとつながります。
この記事をご覧の方々が、将来、立派な養護教諭になり、子供達の成長と健康に貢献できることを願っています。