特定看護師ってどんな仕事?資格取得から仕事の内容までまとめ

近年、より良い看護を提供するため、あるいは看護師としてのスキルアップのために資格を取得している看護師が増えています。

認定看護師や専門看護師は聞いたことのある方が多いと思いますが、2015年から「特定看護師」という新たな制度が開始となったということをご存知でしょうか。

専門看護師と認定看護師の違い、自分にあったキャリアがわかる
専門看護師と認定看護師の違い、自分にあったキャリアがわかる
看護の道を究めようと思ったら「専門看護師」としていくか、それとも「認定看護師」として特化していくか悩みますよね。さらにはスキルという面だけではなく管理者としての成長も求めるとなるとどういった道を進めばいいのか決めかねてしまいます。そこで専門看護師と認定看護師の資格をそれぞれ比較しながら自分の求めるキャリアにあった道を選ぶ指針としてもらえるような資料を用意しました。是非参考にしてください。

特定看護師という名称は聞いたことがあるけれど、詳しい内容は知らない方が多いと思います。

そこで今回は特定看護師とは何か、特定看護師になる方法などを詳しく紹介していきます。

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1.特定看護師とは


特定看護師とは、「特定行為に係る看護師の研修制度」を修了した看護師のことを指します。

特定行為研修を受講して特定看護師になると、医師の指示を待たなくても手順書を確認しながら38の医療行為を処置できるようになります。

この医療行為は「特定行為」と呼ばれ、21分野、38の医療処置が当てはまります。

カルテで説明が記載されている様子

1.1.特定行為と手順書

特定行為とは、診療の補助であり実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされる以下の38行為になります。

特定行為区分 特定行為
1.呼吸器関連(気道確保に係るもの) ・経口用気管チューブまたは経鼻用気管チューブの位置の調整
2.呼吸器関連(人工呼吸療法に係るもの) ・侵襲的陽圧換気の設定変更
・非侵襲的陽圧換気の設定の変更
・人工呼吸管理をされている患者さんに対する鎮静薬の投与量の調整
・人工呼吸器からの離脱
3.呼吸器関連(長期呼吸療法に係るもの) ・気管カニューレの交換
4.循環器関連 ・一時的ペースメーカーの操作および管理
・一時的ペースメーカーリードの抜去
・経皮的心肺補助装置の操作および管理
・大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行う時の補助頻度の調整
5.心嚢ドレーン管理関連 ・心嚢ドレーンの抜去
6.胸腔ドレーン管理関連 ・低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定や設定変更
・胸腔ドレーンの抜去
7.腹腔ドレーン管理関連 ・腹腔ドレーンの抜去

※腹腔内に留置された穿刺針の抜針を含む

8.ろう孔管理関連 ・胃ろうカテーテルもしくは腸ろうカテーテル、または胃ろうボタンの交換
・膀胱ろうカテーテルの交換
9.栄養に係るカテーテル管理関連

(中心静脈カテーテル管理)

・中心静脈カテーテルの抜去
10.栄養に係るカテーテル管理関連

(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)

・末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入
11.創傷管理関連 ・褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去
・創傷に対する陰圧閉鎖療法
12.創部ドレーン管理関連 ・創部ドレーンの抜去
13.動脈血流ガス分析関連 ・直接動脈穿刺法による採血
・橈骨動脈ラインの確保
14.透析管理関連 ・急性血液浄化療法における血液透析器や血液透析濾過機の操作および管理
15.栄養および水分管理に係る薬剤投与関連 ・持続点滴中の高カロリー輸液の投与量調整
・脱水症状に対する輸液による補正
16.感染に係る薬剤投与関連 ・感染微候がある者に対する薬剤の臨時の投与
17.血糖コントロールに係る薬剤投与関連 ・インスリンの投与量調整
18.術後疼痛管理関連 ・硬膜外カテーテルによる鎮痛薬の投与および投与量調整
19.循環動態に係る薬剤投与関連 ・持続点滴中のカテコラミンの投与量調整
・持続点滴中のナトリウム、カリウムまたはクロール投与量調整
・持続点滴中の降圧薬投与量調整
・持続点滴中の糖質輸液
・持続点滴中の利尿薬投与量調整
20.精神および神経症状に係る薬剤投与関連 ・抗けいれん薬の臨時投与
・抗精神病薬の臨時投与
・抗不安薬の臨時投与
21.皮膚損傷に係る薬剤投与関連 ・抗ガン剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射および投与量調整
手順書は、医師が看護師に診療の補助を行わせるために、その指示として作成する文書であり、以下の6項目を記載する必要があります。
1.看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲

2.診療の補助の内容

3.当該手順書に係る特定行為の対象となる患者

4.特定行為を行うときに確認すべき事項

5.医療の安全を確保するために医師との連絡が必要となった場合の連絡体制

6.特定行為を行った後の医師に対する報告の方法

1.2.「特定行為に係る看護師の研修制度」設立の背景

特定看護師制度の設立の背景には、医師不足や医師の負担軽減があります。

人不足を訴えるところ

他先進国と比べると日本は患者数に対する医師の数が圧倒的に少なく、さらには医療費軽減のための「在院日数の短縮化」により、医師の業務量が増えてしまう事態が起こってしまいました。

そこで、看護師の役割を拡大することにより医師の負担を減らし円滑に治療を行っていけるようにと特定看護師制度が設立されました。

1.3.特定看護師という資格はない

特定看護師とは「特定の行為にかかわる看護師の研修制度」を履修した看護師のことで、「資格」にあたるものではありません。

かつては「特定看護師」の資格化が提案されていたようですが、新たな資格の創設は見送られ、研修制度にとどまっています。

2.特定看護師になるには

特定看護師のセミナーのイメージ

特定看護師になるためには、認定看護師としての実務経験が5年以上かつ特定看護師養成指定を受けている大学院で修士課程を修了する必要があります。

ちなみに、認定看護師になるには5年間の実務経験と6か月以上の研修が必須条件であるため、看護師免許の取得から最短でも12年が必要となります。

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2.1.特定行為研修機関

特定行為研修を受けることができる機関は、全国で54機関になります。

特定行為研修を受講できる研修機関を以下の4つに分類し、表にまとめました。

研修機関 大学院の修士過程 大学の研修センター 病院の研修センター 医療関係団体
研修期間 2年間 1年程度 1年程度 6ヶ月~1年程度
応募条件 ・大学卒業資格

・実務経験5年程度

・実務経験3~5年程度

・所属医療機関の推薦状

・実務経験5年程度

・所属医療機関の推薦状

・実務経験5年程度

・所属医療機関の推薦状

※1

試験内容 書類審査、筆記試験、小論文、面接など 書類審査、面接 書類審査 書類審査、小論文、面接など
費用 250万円程度 50万円程度 30~50万円程度 40~60万円程度
総数 8機関 9機関 32機関 5機関
・団体によっては所属機関からの受講同意書が必要

・日本看護協会の場合は認定看護師の資格保有者

どの研修機関を選ぶかによって、応募条件や受講料、研修期間が異なります。

研修機関の詳細は、以下の厚生労働省の資料を参照してください。

2.2.特定看護師はどんな人が向いているのか

特定看護師に求められるのは、医師の思考を理解できること、チーム医療のキーパーソンとなることです。

そのためには、以下の資質を持っていることが求められます。

・勉強量の多さが苦にならない人

・向上心のある人

・論理的思考力のある人

・トラブルがあっても冷静に判断ができる人

・チームプレイが得意な人

2.3.ナースプラクティショナー(NP)との違い

NPのイメージ

特定看護師のモデルとなったのは医療先進国アメリカのナースプラクティショナー(NP)という資格です。

アメリカをはじめとする諸外国では医師の指示がなくてもNPが特定の診断や薬剤の処方など一部の診療行為を行うことが認められています。

現在NPを国内でも創設しようと日本NP協議会を中心に話が進んでおり、2008年から一部の大学でNPの教育が開始されましたが医師法という法律の壁に阻まれ、現在も医師の指示なく診断、薬剤の処方、投与などの医療行為を行う事は認められていません。

そこで医師の指示として作成する手順書に記載されている内容であれば看護師も特定行為を認める形で特定看護師が採用されました。

2.4.専門看護師・認定看護師とは何が違うのか

特定看護師、専門看護師、認定看護師、それぞれの詳細を以下にまとめました。

特定看護師 専門看護師 認定看護師
条件 3~5年以上の実務経験 5年以上の実務経験

(うち専門看護分野3年以上)

5年以上の実務経験

(うち認定看護分野3年以上)

特徴 手順書に従い38の特定行為を行う 患者の直接ケアと医療者の連携をはかる「看護ケアのスペシャリスト」 臨床現場で水準の高い看護技術を実践できる「臨床現場におけるエキスパート」
教育・審査 国が定めた指定研修機関で研修を受ける

(315時間+15~72時間)

看護系大学院を修了し、必要単位を取得後、認定審査に合格 認定看護師教育機関過程修了後、認定審査に合格
認定機関 国(厚生労働省) 日本看護協会 日本看護協会

3.特定看護師についての賛否両論

3.1.特定看護師に対して肯定的な意見を持っている人

肯定的な様子

・特定行為を看護師の判断で行うようになると、医師の指示が必要になる行為が減り、医療現場における医師の負担が軽減される。

・医師の指示待ちにより処置が手遅れになってしまう可能性があり、特定行為を看護師の判断で行えるようになると、治療行為の効率が向上し、多くの患者の生命を救うことに繋がる。

・医療現場では、看護師は医師のサポート的な役割を果たすことが多く、やりがいを感じないナースも少なくない。

特定行為研修を受けナースが主体となった治療行為が可能になることで、看護師自身のモチベーション向上に繋がる。

3.2.特定看護師に対して否定的な意見を持って

否定的な様子

・看護師が行える行為が増えることで看護師の業務負担が増えてしまう。

・特定行為はいずれも高度なスキルを必要とする行為なので、業務負担が増える上に集中力も求められ、看護師の精神的・身体的ストレスが高まる可能性がある。

・特定行為研修制度は公的な資格ではなく、制度を充分に把握していない患者にとっては不安を覚える可能性がある。

・責任の所在が不明瞭になる

3.3.特定看護師の体験談

・包括的指示」のもと裁量が拡がったことで患者さんの待ち時間も減り、スムーズな診療につなげることができるようになった

・看護師が医師の思考を理解し、その動きを予測してサポートすることが、より良いチーム医療につながることを学んだ

・他職種とより専門的な話ができるようになった

4.研修後の仕事内容や給料は?

特定看護師になると、特定行為に関する判断や行為の実施が仕事内容に加わります。

ただこの制度は2015年に施行された制度で、発足してから間もないこともあり、現時点では一般的な看護師との間に明確な給与の差は生じていない病院が多いようです。

しかし、質の高い看護、知識豊かな看護師が提供する看護というものに重きを置いている病院は多く、任せられる仕事内容の幅が広いことから、今後需要が高まると考えられ、結果的に給与アップにつながっていくと考えられます。

現時点では研修を受けた看護師も多くなく、詳しい状況はこれから徐々にわかってくると思われます。

どんなかんじなのか

さいごに

今回は特定看護師について、制度化への経緯や、研修について、先駆者たちの体験談、賛否両論などについて述べてきました。

特定看護師は在宅医療や過疎地域の医療でのキーパーソンであり、医師や患者の負担を減らす存在として期待されています。

しかし、医師に近い業務を任される立場にあり、通常の看護師以上に責任感が必要となります。

また、マネージメントといったチームをまとめあげる業務が増えるため、生半可な気持ちでは特定看護師は務まりません。
始まったばかり制度なので、今後どのような成長を遂げ、医療界にとってどんな存在になっていくのか、見守っていきましょう。

最後に