「専門看護師」「認定看護師」の2つの資格は看護師のキャリアアップや専門性向上のための選択肢の一つとして年々注目が高まっています。
看護における特定分野のスペシャリストとしてよく比較される二つの資格ですが、専門看護師と認定看護師の違いを明確に説明できる人はそう多くありません。
専門看護師と認定看護師は、専門分野も担う役割も仕事内容も別物なので、まず自分が資格取得を目指す理由や目的をきちんと整理、理解する必要があり、その上でどちらを目指すのかをしっかり考える事が重要です。
ここでは、専門看護師と認定看護師の違いを細部まで徹底比較し、あなたのキャリアアップにはどちらの資格が向いているのかをご紹介していきます。
1.専門看護師と認定看護師の違いとは?
専門看護師は特定の看護分野において円滑に治療を行うために幅広いケアをマネジメントしていきます。
複雑で対応が困難な課題を抱える患者やその家族が抱えている問題を総合的に捉えて判断する力と広い視野を持ち、どのような看護が必要か判断して実践することが求められます。
治療方針の決定など倫理的問題が生じやすい場面に関わり、患者やその家族の思いを尊重して治療や療養を行えるよう、他の看護師や医師に働きかけたり、病院から在宅へのスムーズな移行のための調整を行ったりといった役割もあります。
認定看護師は特定の看護分野に特化した知識・経験をもって”集中的なケア”を行います。
専門的な治療やケアが必要な患者やその家族に対してより質の高い看護を提供することが求められます。
また、同じ医療施設で働く看護師たちの手本となり、スペシャリストとして看護技術などを指導したり、看護の現場で直面する問題について相談を受けて、改善策を導き出せるようサポートするという役割もあります。
2.専門看護師と認定看護師が担うそれぞれの役割
専門看護師と認定看護師は、役割の数に違いがあり、専門看護師の役割は6つ、認定看護師の役割が3つになります。
2-1.専門看護師の役割
・相談:看護者やケア提供者にコンサルテーションを行なう
・教育:看護者に教育的役割を果たす
・調整:必要なケアが円滑に行なわれるために、保健医療福祉に携わる人々のコーディネーションを行なう
・倫理調整:倫理的な問題や葛藤の解決を図る
・研究:専門知識・技術向上や開発を図るため研究活動を行なう
患者や家族により良い看護を行うにはどのような関わりが必要なのかなど、看護師や他の医療職の相談に乗り、専門知識を活かしたアドバイスを行います。
2-2.認定看護師の役割
・相談:看護職に対しコンサルテーションを行なう
・指導:看護実践を通じて看護職に指導を行なう
他の看護職に対し、自らが手本となることで、専門知識や看護技術の指導を行って水準の高い看護を行えるように働きかけたり、現場で直面する問題や疑問の相談に乗り解決策や改善策を見出だせるよう、認定看護分野の専門知識に基づいて支援します。
倫理調整・調整・研究は認定看護師にはない役割であり、実践・相談・教育(指導)においても、対象や内容に違いが見られ、専門看護師の活動は認定看護師に比べ広範囲に及びます。
専門看護師はある特定分野における深い知識・卓越した看護技術はもとより、組織を横断しながら調整(マネジメント)することの業務が多くなり、施設内外での活動は広範囲にわたります。
また、看護職に対する教育的役割・倫理的な問題や葛藤の解決をはかる倫理調整、技術向上をはかるための研究活動も専門看護師に限られた役割です。
「専門看護師」が保健医療福祉のコーディネーションや研究活動などを任務としているのに対し、認定看護師はあくまでも臨床現場におけるエキスパートであり、臨床現場に焦点をあてた3つの役割を果たし、看護ケアの広がりと質の向上に貢献します。
3.専門看護師と認定看護師の資格取得ルート
3-1.専門看護師の資格取得について
基本的には大学に入学するなどして一定期間の研究が必要になります。その後修了テストをおこない資格を取得する流れです。
①大学院へ入学
どの分野に関して専門看護師になりたいのかを明確にし、その分野について学べる大学院に入学する必要があります。
入試科目は、看護学、小論文、英語の3つが一般的で面接ではどうして専門看護師になりたいのか明確なビジョンを語る必要があります。
②大学院での教育課程を修了する
大学院では看護教育論や看護管理論、看護倫理といった共通科目の履修に加えて専攻する専門分野の教育課程を履修する必要があります。
日本看護系大学協議会が定める所定の単位を取得し博士課程を修了すると認定審査を受けることが出来ます。
③認定審査に合格、登録
毎年1回実施される専門看護師認定審査に合格し、専門看護師の登録をする必要があります。
認定審査では書類審査に加え論述式の筆記試験もあり、大学院で学んだ知識をフル活用する必要があります。
3-2.認定看護師の資格取得について
①教育機関を選ぶ
どの分野に関して認定看護師になりたいのかを明確にし、それに適したプログラムを提供している教育機関を選ぶ必要があります。
働きながら通う看護師が多いため、勤務している病院からの通学を考慮して候補先を絞り込んでいきましょう。
②教育課程を修了する
認定看護師教育機関は原則として6ヶ月以上の連続した昼間となっています。
共通科目は105時間以上で専門基礎科目・専門科目は時間既定なし、学内演習および臨地実習は200時間以上などと定められています。
③認定審査合格、登録
毎年1回実施される認定看護師認定審査に合格し、認定看護師の登録をする必要があります。
認定審査は筆記試験(マークシート方式・四択択一)で実施されます。
専門看護師資格の受験には看護系大学大学院修士課程修了、認定看護師資格には認定看護師教育課程を履修する必要があります。
資格取得のバックアップ体制が整っていない医療施設も多く、働きながら就学することは容易なことではありません。
特に専門看護師は、大学院での修士課程修了が条件ということで費用や期間をより要することになります。
本気で専門看護師を目指す場合は資格取得に対して前向きな職場への転職は必須になってきます。
4.専門看護分野と認定看護分野
4-1.専門看護分野
13分野が専門看護分野として特定されています。
【がん看護】
- がん患者の身体的・精神的な苦痛を理解する。
- 患者やその家族に対してQOL(生活の質)の視点に立った水準の高い看護を提供する。
【精神看護】
- 精神疾患患者に対して水準の高い看護を提供する。
- 心のケアを行う「リエゾン精神看護」を提供する
※リエゾン看護:患者と医療関係者との心の橋渡しをし、質の高い精神ケアを提供すること。
【地域看護】
-
・
- 産業保健、学校保健、保健行政、在宅ケアの領域において水準の高い看護を提供する。
- 地域の保健医療福祉の発展に貢献する。
・
【老人看護】
-
・
- 高齢者が入院・入所・利用する施設において、QOLを向上させる。
- 認知症や嚥下障害などをはじめとする複雑な健康問題を持つ高齢者に水準の高い看護を提供する。
・
【小児看護】
-
・
- 子どもたちが健やかに成長・発達していけるように療養生活を支援する。
- 他の医療スタッフと連携して水準の高い看護を提供する。
・
【母性看護】
-
・
- 周産期母子援助、女性の健康への援助、地域母子保健援助など女性と母子に対する専門看護を行う。
【慢性疾患看護】
-
・
- 生活習慣病の予防や、慢性的な心身の不調とともに生きる人々に対して、慢性疾患の管理、健康増進、療養支援などに関する水準の高い看護を行う。
【急性・重症患者看護】
-
・
- 緊急度や重症度の高い患者に対して集中的な看護を提供する。
- 患者本人とその家族の支援、医療スタッフ間の調整などを行う。
・
【感染症看護】
- 施設や地域における個人や集団の感染予防と発生時の適切な対策に従事する。
- 感染症の患者に対して水準の高い看護を提供する。
【家族支援】
- 患者の回復を促進するために家族を支援する。
- 患者を含む家族本来のセルフケア機能を高め、主体的に問題解決できるよう身体的、精神的、社会的に支援し、水準の高い看護を提供する。
【在宅看護】
- 在宅で療養する対象者及びその家族が、個々の生活の場で日常生活を送りながら在宅療養を続けることを支援する。
- 在宅看護における新たなケアシステムの構築や既存のケアサービスの連携促進を図り、水準の高い看護を提供する。
【遺伝看護】
- 対象者の遺伝的課題を見極め、診断・予防・治療に伴う意思決定支援とQOL向上を目指した生涯にわたる療養生活支援を行い、世代を超えて必要な医療・ケアを受けることができる体制の構築とゲノム医療の発展に貢献する。
【災害看護】
- 災害の特性をふまえ、限られた人的・物的資源の中でメンタルヘルスを含む適切な看護を提供する。
- 平時から多職種や行政等と連携・協働し、減災・防災体制の構築と災害看護の発展に貢献する。
※専門看護分野は2016年11月に、新たな専門看護分野として遺伝看護、災害看護が特定され合計13分野となりました。
分野別人数をまとめたグラフが以下になります。
※日本看護協会
分野別で見ると、がん看護の専門看護師が圧倒的に多くなっています。
しかし、多様化する現代社会の背景やこれからの医療の中では、精神看護や小児看護、家族支援など、他の分野の需要も増えてくると思われます。
4-2.認定看護分野
21分野が認定看護分野として特定されています。
【救急看護】
- 救急医療現場における病態に応じた迅速な救命技術、トリアージの実施
- 災害時における急性期の医療ニーズに対するケア
- 危機状況にある患者・家族への早期的介入および支援
【皮膚・排泄ケア】
- 褥瘡などの創傷管理およびストーマ、失禁等の排泄管理
- 患者・家族の自己管理およびセルフケア支援
【集中ケア】
- 生命の危機状態にある患者の病態変化を予測した重篤化の予防
- 廃用症候群などの二次的合併症の予防および回復のための早期リハビリテーションの実施(体位調整、摂食嚥下訓練等)
【緩和ケア】
- 疼痛、呼吸困難、全身倦怠感、浮腫などの苦痛症状の緩和
- 患者・家族への喪失と悲嘆のケア
【がん化学療法看護】
- がん化学療法薬の安全な取り扱いと適切な投与管理
- 副作用症状の緩和およびセルフケア支援
【がん性疼痛看護】
- 痛みの総合的な評価と個別的ケア
- 薬剤の適切な使用および疼痛緩和
【訪問看護】
- 在宅療養者の主体性を尊重したセルフケア支援およびケースマネジメント看護技術の提供と管理
【感染管理】
- 医療関連感染サーベイランスの実践
- 各施設の状況の評価と感染予防・管理システムの構築
【糖尿病看護】
- 血糖パターンマネジメント、フットケア等の疾病管理および療養生活支援
【不妊症看護】
- 生殖医療を受けるカップルへの必要な情報提供および自己決定の支援
【新生児集中ケア】
- ハイリスク新生児の病態変化を予測した重篤化の予防
- 生理学的安定と発育促進のためのケアおよび親子関係形成のための支援
【透析看護】
- 安全かつ安楽な透析治療の管理
- 長期療養生活におけるセルフケア支援および自己決定の支援
【手術看護】
- 手術侵襲を最小限にし、二次的合併症を予防するための安全管理(体温・体位管理、手術機材・機器の適切な管理等)
- 周手術期(術前・中・後)における継続看護の実践
・
【乳がん看護】
- 集学的治療を受ける患者のセルフケアおよび自己決定の支援
- ボディイメージの変容による心理・社会的問題に対する支援
【摂食・嚥下障害看護】
- 摂食・嚥下機能の評価および誤嚥性肺炎、窒息、栄養低下、脱水の予防・適切かつ安全な摂食
- 嚥下訓練の選択および実施
【小児救急看護】
- 救急時の子どもの病態に応じた迅速な救命技術、トリアージの実施・育児不安、虐待への対応と子どもと親の権利擁護
【認知症看護】
- 認知症の各期に応じた療養環境の調整およびケア体制の構築
- 行動心理症状の緩和・予防
【脳卒中リハビリテーション看護】
- 脳卒中患者の重篤化を予防するためのモニタリングとケア
- 活動性維持・促進のための早期リハビリテーション
- 急性期・回復期・維持期における生活再構築のための機能回復支援
【がん放射線療法看護】
- がん放射線治療に伴う副作用症状の予防、緩和およびセルフケア支援
- 安全・安楽な治療環境の提供
【慢性呼吸器疾患看護】
- 安定期、増悪期、終末期の各病期に応じた呼吸器機能の評価及び呼吸管理
- 呼吸機能維持・向上のための呼吸リハビリテーションの実施・急性増悪予防のためのセルフケア支援
【慢性心不全看護】
- 安定期、増悪期、終末期の各病期に応じた生活調整及びセルフケア支援
- 心不全増悪因子の評価およびモニタリング
上位が感染管理、皮膚・排泄ケア、緩和ケアとなっています。
病院内の感染管理に敏感なので、これに対応できるエキスパートとして「感染管理」を選ぶ人が多くなっています。
また全般的に特定の疾患に関するケアが対象なのですが、高齢化社会に合わせた緩和ケアや認知症看護、訪問看護への需要の高さから、これらを選択する人も多くなってきています。
5.自分に合った資格は?
5-1.専門看護師を目指した方が良い看護師
①費用や期間が掛かっても、高い専門性を持つ看護師になりたい
専門看護師は、大学院修士課程を修了しなくてはならないため、大学院へ通う2年間の学費や生活費などの費用が必要になります。
病院によっては様々なサポートを受けることができますが大学院修士課程を修了することは認定試験の受験資格の一つを満たしただけに過ぎません。
専門看護師認定試験に合格するための必要な技術を身につける為に2年間就学することは高い志が必要となります。
②医療チームが円滑に機能するための関係調整と、看護職員のケアをしたい
専門看護師の仕事は、患者やその家族に対して看護ケアを行うだけではなく、看護職者を含むケア提供者に対してコンサルタントを行います。
看護職員個人、チーム、部署を対象に、個人面接、カンファレンスなどを行い、看護ケアに関する悩みから仕事上のストレスに関する相談に乗ります。
必要なケアが円滑に行われるように、多職種間や、病棟間、部門間の関係調整を図る重要な役割になります。
③看護の質を向上させたい
専門看護師は、病院全体の看護の質を高めるために研修の企画、運営、教育活動の実施など、看護師の育成に携わります。
また自宅で適切な看護を受けられるように家族に看護ケアの方法を教えたり、訪問看護ステーションやケアマネージャーなどと協力して在宅医療でのサポートを行ったりと自身が所属する施設や地域に働きかけ、地域での看護の質を向上させる活動もしています。
④専門的な知識と技術を持ち、患者やその家族が病気と向かい合っていけるように支援したい
専門看護師は、患者やその家族の心のケアをおこなうための技術を身につけることができます。
病棟・外来・デイケアを利用する患者、その家族に対して、スタッフとともに個人・集団ケアを行っていける環境を整えていくことができます。
5-2.認定看護師を目指した方が良い看護師
①特定の分野に特化したエキスパートになりたい
認定看護師の役割は、特定の認定看護分野での専門的技術と経験を活かし、質の高い看護を現場で実践していくことになります。
高度な看護知識と熟練した技術を扱うことができるようになります。
②臨床の現場で、患者の不安・苦痛に直面し「今自分にできることは何か」と悩んでいる
認定看護師資格を取得することにより、確実な化学療法を実践するための新たな知識と技術を身につけることができます。
患者が安心して看護を受けることができるように適切な情報を提供できるようになり、看護ケアの質を上げることができます。
③他職種を含めた職員を対象にしたスキルアップの取り組みをしたい
より多くのスタッフが各分野の正しい知識と看護技術を得られるよう、指導に力を注ぐことができるようになります。
また、地域の医療・福祉機関との連携強化も視野に入れながら活動を展開することができるようになります。
④できるだけ短い期間で専門性の高い看護師資格を取得したい
受験の条件となる認定看護師教育課程を終了するには、6ヶ月・615時間以上の授業を受講する必要がありますが、専門看護師の大学院修士課程修了に要する期間と比較すると短く資格を取得することができます。
ただし、それは専門看護師の条件と比較した場合に過ぎず、615時間以上の授業を受講する事は時間と費用がかかることであり、容易なことではありません。
臨床現場で活きる実践的な看護技術を身につけたいという強い意志が必要になります。
さいごに
今回は、認定看護師と専門看護師、2つの資格についてみていきました。
どちらも専門性が高く、取得までの時間や経験が必要ですが、看護師のキャリアアップには最適です。
これらの資格を習得することで業務内容やその役割も大幅に広がります。
専門看護師と認定看護師の理解を深め、それぞれが求められる役割を踏まえた上で、資格取得へ臨みましょう。