災害の時、現場で命と向き合う人達が大勢います。その中で今回は、災害時に看護を行う看護師の仕事に着目してご紹介したいと思います。
目次
1.そもそも、災害看護とはどんなことをするのか
災害看護という言葉を知っていますか?
災害看護とは、名前の通り「災害」に特化した医療処置や看護を提供することを指します。
災害として、具体的にイメージしやすいのは、“自然災害”ではないでしょうか。ここ数年の間に、東日本大震災、熊本地震、広島の豪雨災害などが記憶に新しいですね。
その他、テロや内乱・大型交通事故などの“人的災害”や政治的要因による騒動、人道的緊急事態を含む“特殊災害”も災害看護の対象となります。
これら災害の現場に出動して看護を行う事を災害看護と言います。
1.1.災害時の看護師の役割
災害時に救助や活動を行う看護師を一般的には「災害支援ナース」と呼ばれ、その活動は大きく分けて下記の4つの期間ごとに対応する内容が異なります。
<4つの期間と対応例>
①災害発生から3日まで【急性期】
被災者の受け入れ態勢を整える準備の他、中等度から重症患者に対する気道確保や血管確保などの初期治療の他、軽症者の手当て、患者とその家族への精神麺での観察や支援、 二次災害の防止、死亡者の移送等を行います。
②災害発生から1ヵ月~半年まで【亜急性期】
患者に対する精神的な健康への配慮、巡回診察にて心身の健康状態の確認、環境や保健衛生の調査や感染症の調査等を行います。
③災害発生から2~3年まで【慢性期】
慢性的な疾患や感染症などの看護や精神的疾患(トラウマ・PTSD等)のケア等を行います。
④災害発生から3年以降【静穏期】
今後の課題と対応策の検討や被害減災に向けた行動化を図ります。
1.2.災害看護における災害マニュアルとは?
災害時、被災場所は大変混乱して人が入り乱れることが多く、二次災害・二次被害の危険が潜んでいます。
災害看護に携わる人は、冷静かつ迅速・適格に行動するこが求められます。
しかし、誰もが経験のしたことのない災害の場合、災害看護に携わる人でさえ、パニックに陥る危険性も十分に考えられます。
そんな状況の中で冷静に判断し、より多くの人を救済できるようにするため災害マニュアル(初動手順)というものがあるのをご存知でしょうか。
この災害マニュアルは別名『CSCATTT(スキャット)』と呼ばれ、全ての看護師が把握しておくべきマニュアルとして完備されています。
このマニュアルでポイントとされている項目は下記の通りです。救済を行う全ての人が、このマニュアルを規準にまずは活動します。
【組織体制について】
指揮命令・統制 | 混乱した状況下においては、警察・消防等組織間の連携が行えるよう、指揮命令系統を確立する |
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安全 | 医療従事者が安全に活動できないと判断される場合は、責任者へ通達・現場からの一時退避、安全が確保されるまで避難原則に従う |
意思疎通・情報収集/伝達 | TV・ラジオ等で現状把握、医療組織以外との情報交換を行う |
評価・判断 | 病院の状況や被災地の状況、患者の受け入れ可否を判断する |
【医療支援について】
トリアージ | 災害現場で搬送時、治療の優先順位を決定すること |
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治療 | トリアージで緊急度の高い被災者から見合った治療を行う |
搬送 | 人材・器具の在庫、ライフラインの状況等を考慮し、後方搬送を行う |
1.3.トリアージの必要性
前項の災害マニュアルにおける医療支援のところで、“トリアージ”について触れましたが、この治療の優先順位についてご紹介したいと思います。
このマニュアルに則り、治療の優先順位を決めてケアにあたるのは、「生存者をいかに救助援・助けるか」という観点から作られたものです。
混乱した中で行うケアは、効率的にかつ迅速でなければ助かるはずの人も命を落としてしまう危険性が多いにあります。より多くの人を助けるために中には苦肉の選択を強いられる場合もあります。
優先順位には、子供・女性・高齢者・病人・障害者を優先するという原則があり、混乱の中すぐにその優先順位を判断できるように、4色のタグを用いて被災者の重症度を視覚的に判断できるようにして管理します。(赤、黄、緑、黒の4色)
災害看護に限らず、看護の世界で仕事をしようと思っているなら絶対に知っておくべきことですので理解を進めておきましょう。
2.主な災害看護の支援活動の内容
災害支援ナースは、主に避難所や救護所が活動場所となります。
避難場所では、環境の整備(冷暖房・換気・照明・騒音の配慮・リラックスできる空間の提供等)や、食事の配慮が必要な人に対しメニューの調整・水分補充の支援、保清・排泄の援助、睡眠環境確保に対する援助、精神面のサポート等多岐に渡ります。
一報、救護所では環境整備の他、医療の提供(診療・投薬介助)、伝達や記録、調査(情報収集)等も支援ナースが行います。
3.PTSDの看護
PTSDとは、心的外傷ストレス障害のことを指します。災害や人質、家庭内暴力など様々な要因により、精神的なトラウマから発症するものです。
災害においては、生命の危機に直面するため、重いストレスがかかり、急性期から亜急性期にかけて発症することが多く、その後も重度になる場合もあります。
完治するまでには、時間を要することが多く、社会的復帰が困難となってしまう場合もあります。それを未然に防ぐためにも災害支援ナースの力が必要とされています。
3.1.PTSDの症状とは?
PTSDの症状は大きくわけて3つの症状から判断されるようです。参考までにざっと紹介しておきますので覚えておくとよいでしょう。
①過覚醒症状・不安状態
経験したことによるトラウマによって、情緒不安定になることや集中力に欠ける症状、不安から発症する不眠、興奮状態が続くことや恐怖に怯えるような症状を引き起こします。
②回避行動
強い恐怖や不安を感じた時、人の脳は一時的に現状に適応させようと脳が働きます。この時に感情が麻痺状態に陥り、喜怒哀楽の感情が表に出なくなります。
③フラッシュバック
過去のトラウマなどの体験が自分の中で整理できず、自分の意思に反してその状況や映像が頭の中に浮かび上がり、追体験をします。交感神経が過剰に働き、悪夢を見る、動機がする、筋肉が硬直するなどの症状が表れます。
3.2.PTSDに対する心のケア
PTSDが起こりやすいとされる急性期から亜急性期にかけては、PTSDに陥らないよう、各場所で被災者への配慮を徹底し、精神的な支えとなれるようケアに励むことが大切です。
PTSDに陥ってしまった場合には、長期的なサポートを要します。根気強く寄り添う姿勢で患者と向き合うことが大切です。
4.災害看護における必要な能力
災害看護において必要となる能力は、豊富な看護経験はもちろんのこと、体力・判断力・コミュニケーション能力・自己管理能力など様々な能力が求められます。
そのため、ホスピタリティ精神だけではうまくいかないこともしばしばあります。この業務をしたいと考えている場合には、災害に関する知識習得をしながら通常の看護の現場で経験を積むことが第一歩でしょう。
病院などの看護の現場と災害での看護の現場、どちらもケアを求めている人へのサポートをするという意味では同じであります。
環境の違いは経験で埋めるしかありませんが、この共通するケア技術についてはノウハウがしっかりある病院などで積む方が良いでしょう。
5.災害看護の苦労とやりがい
災害看護で一番苦労するのは、看護師としての力量が求められる他、状況に応じた判断が分刻みで求められる切迫した環境が多く、さらにそれを相談できる人も圧倒的に少ない状況にいることなどもあります。
その場面に遭遇しても、動じない精神力も必要とされ、経験を積むことが何よりの財産となるようです。
災害看護は、人の生死に直面することも多く辛い場面に遭遇する率も高いと言えますが、緊迫した中でも、人の命を救えた時の喜びは一入です。その点にやりがいを感じる看護師は多いようですね。
6.災害支援ナースになるには
災害支援ナースになるにはどのような工程を踏めば良いのでしょうか。看護師になれば必ずなれるというわけではなく、3つの登録条件をまずはクリアしていないと災害支援ナースとして働くことはできません。
災害支援ナースの登録要件
②日本看護協会の会員である
③勤務先の所属長より災害支援ナース登録の許可を得ていること
前項までに災害看護について触れた通り、緊迫した現場であるため①看護師の臨床経験が5年以上とされているのは納得できます。
早い段階で、災害支援ナースになりたい意向がある場合には上長にその意思を伝えておくのも良いかもしれませんね。
また、上記の条件の他に日本看護協会が主催する研修・報告会等にも参加することが義務付けられています。
6.1.災害支援ナースの登録方法
前項の条件をクリアし、研修を受講して初めて登録が可能となります。
必要書類を取り寄せ、日本看護協会へ郵送しましょう。審査の結果、登録が受理され、初めて災害支援ナースとして働く条件が整います。
参考元:災害支援ナース登録申請について