赤ちゃんが生まれたら、名前を決めて出生届を提出します。
日本では、この名づけをするにあたり、古くから枕引き・枕下げ、お七夜、命名式とさまざまな名前で呼ばれるお祝いを行う風習があり、現在もお祝いをされているご家庭が多いです。
枕引き・枕下げ、お七夜、命名式とはどのような由来があり、どういったお祝いをするのか具体的に触れたいと思います。
産後すぐのお母さんの体はガタガタですので、形式にとらわれすぎずに無理のない範囲でお祝いしましょう。
1.枕引きはお七夜や命名式とも呼ばれるお祝いの日
・枕引きにまつわる由来とは
「枕引き」は「お七夜」や「命名式」とも呼ばれ、古くからの日本の習慣では赤ちゃんを出産したお母さんが産後7日目に床上げをする日とされています。
床上げをする日とは、母親の体が回復し、布団を敷きっぱなしにしなくても大丈夫になったころを指し、「枕下げ」「ひとうぶや」とも呼ばれていました。
今では聞きなれない言葉ですが、枕引きという言葉の意味に触れておくことで、産後安静にすることの大切さをご理解いただければ幸いです。
現在では、「枕引き」にあたる産後7日目での母親の床上げはほとんどの家庭で行われていません。
その背景には、産後7日目は母子ともに退院して間もない頃であることや、母親の体調が回復するまでには産後4週間程度必要であることや、核家族化が進み里帰り出産ができない母親も多いことなどが理由として挙げられます。
中には核家族でどちらの祖父母も頼れないため、産後の家事と育児は退院してすぐから母親1人でこなすというケースも多いです。
産後の母親の体は見た目以上にガタがきていますので、できるだけ無理をせず、枕引きやまたはお七夜や命名式とも呼ばれるお祝いの日はお宮参りのときに一緒に行ったり、命名式だけをシンプルにお祝したり、可能な範囲で行うようにしてください。
・お七夜の歩んできた歴史と由来、そして現在の形とは
赤ちゃんが生まれて7日目にあたるお祝いにあたる「お七夜」には、赤ちゃんの名前を披露する命名式が行われ、赤ちゃんの名前を披露し、赤飯やお頭つきの魚などの祝い膳を用意して親族でお祝いします。
役所に出産届を提出するのは生まれた日から14日以内なのに、なぜ、7日目にお祝いをするのでしょうか?きちんと理由があります。
まだ医療技術が発達していない昔は赤ちゃんの死亡率が高く、生まれてから6日目までの赤ちゃんは「神の子」とされ、7日目で「人間の子ども」と認められました。
さらに昔は7日目に赤ちゃんの父親の忌みが晴れ、父親が赤ちゃんと関わることや名前をつけることが許されるとされていました。
赤ちゃん自身と赤ちゃんにつけた名前をお披露目し、家族や地元の人々、その土地の氏神様に報告する日だったのです。
そのため、人間の子として認められる儀式としてお七夜があり、あわせて命名式が行われていたのです。
さらにお七夜には歴史があります。
奈良・平安時代頃から家の神や氏神に赤ちゃんが社会の一員となることを報告する行事が始まったようです。
現在は生まれて7日目に「お七夜」とあわせて「命名式」「枕引き」をお祝いしますが、奈良・平安時代の貴族たちは生まれた日から9日目までの奇数日にあたる生まれた日に「産養」「産立の祝い」として赤ちゃんの無事と健やかな成長を願うお祝いを行っていました。
その後時は流れ、江戸幕府がお七夜を公式行事とし、お七夜のときに命名の儀を行い諸大名を招いてお祝いを行っていたため、一般にも「お七夜」と「命名式」を一緒に行うことが広がりました。
現在は古くから大切にされている日本の習慣を守りつつ、母親の体に負担のない範囲でお祝いをするご家庭がほとんどのようです。
里帰り出産をしているお母さんは祖父母に相談して身内だけでお祝いをしたり、退院後すぐに家族で子育てをスタートしているお母さんはお宮参りのときにまとめてお祝いをしたり、色々な工夫ができます。
このようにお七夜の歩んできた歴史と由来、そして現在の形に触れることで、赤ちゃんが健やかに成長することがとてもめでたいこととされていたのが伝わってきますね。
医療技術が発達した現在はそのことが自然な流れとなっていますが、改めて赤ちゃんが健やかに成長していくことの幸せを再認識したいものです。
朝起きて、夜眠るときも愛おしい小さな存在がいてくれることが幸せなのです。
・命名式の歩んできた歴史と由来、そして現在の形とは
命名式は、赤ちゃんが生まれて7日目にあたる日に赤ちゃんの名前を書いた命名書を神棚や床の間にお供えし、赤ちゃんの健やかな成長を願うためのお祝いごとです。
ただ、最近は神棚や床の間があるご家庭がほとんどありませんので、ベビーベッドや赤ちゃんが寝ている枕元に貼ったり、神棚の向きでも良いとされている南向きまたは東向きを意識したりして貼ったりされていることが多いようです。
命名式の由来や歴史については、お七夜と重なる点が多いため省略させていただきます。
では、名づけや命名書の作成について触れさせていただきます。
昔は祖父や年長の親類、お寺の住職、村の長老などに名づけ親を頼み、あわせて命名書を書いてもらうことが多かったですが、現在はすべてを両親がすることがほとんどです。
名づけは赤ちゃんが生まれた喜びにあふれていますが、少し冷静になり、大人になってからも困らない名前を贈ることがとても大切です。
少なくとも、読める漢字であることと、常識に欠ける漢字を使わないことは大切にしてほしいです。
命名書は正式な命名書から略式な命名書まであり、市販の命名書を利用する人から手作りの命名書を用意する人までさまざまです。
詳しい命名書の書き方に関しましては、後ほど触れさせていただきます。
命名式について触れることで、赤ちゃんの名前候補はできるだけ早めからピックアップしておくことの大切さをご理解いただければ幸いです。
しかし、赤ちゃんの名前を決めていてもじっさいにはギリギリまで悩む方も多いですよね?
一生使う大切な名前ですので、ギリギリまで悩んで後悔のない名前をプレゼントしてください。
2.お七夜・命名式を行う日の数え方は
お七夜・命名式を行う日の数え方は一般的な数え方とは少し異なります。
一般的に、赤ちゃんが生まれた日を「生後0日」として数えますが、お七夜・命名式を行う日を数えるときは生まれた日を「生後1日」として数え、7日目の夜にお祝いをします。
生後6日目にお祝いをすると考えてください。
たとえば1月1日に生まれた赤ちゃんの場合、1月6日の夜にお七夜・命名式を行うことになります。
あくまで目安ですので、日数にこだわらずに他の日にお祝いをしてもマナー違反にはあたりませんので安心してください。
母親の体調がすぐれなかったり、お招きしたい祖父母との予定が合わなかったりする場合は、命名式のみを家族で行い、お祝いのお膳を用意する機会はお宮参りとまとめても良いです。
驚かれるかもしれませんが、私は赤ちゃんが生まれたのは真冬でしたので、写真撮影のみ写真屋で先に済ませ、お宮参りは3月に入ってから行いました。
そのときに、命名式、お宮参り、初節句(女の子)、お食い初めをまとめて行いましたので、本当に昔からの習慣やマナーにとらわれすぎず、母親と赤ちゃんの体調を最優先してください。
これらはすべて夫の両親と相談して行いました。
家庭環境によっては、夫あるいは妻の両親との相談も大切にしてください。
3.命名式で使う命名書の書き方は
・命名式とはどのような行事なのか?
命名式は、赤ちゃんの名前を書いた命名書を披露する儀式です。
生まれた赤ちゃんの名前を命名書に書き、家族の一員として迎え入れるとともに、赤ちゃんの健やかな成長を願う儀式として古来から行われてきました。
では、具体的にどのような流れで行うのかご紹介します。
命名書には正式なものと略式のものの二種類があり、詳しくは次の項目でご紹介します。
正式な命名書はお供え物をのせる三方にのせ、床の間や神棚に飾ります。
略式の命名書は神棚や床の間の鴨居に貼って飾りますが、神棚や床の間がなければ、赤ちゃんの枕元に貼ったり、鴨居につるしたりして、目立つ場所に飾ります。
命名式が終わったあとに、お七夜の祝い膳として、お頭つきの鯛と赤飯を基本とし、昆布、紅白の麩かまぼこ、なます、刺身、はまぐり、ぶり、ボラなどの縁起の良い料理をみんなで食します。
祝い膳を食べたあとは、家族で写真撮影をしたり、赤ちゃんの手形や足形を取ったりします。
命名式とはどのような行事で、どういった流れでお祝いするのかお話しさせていただきました。
しかし、型にはまったやり方にとらわれず、命名式のみ夫婦で行ってお祝いは後日落ち着いてからにしたり、祝い膳は仕出し料理を注文したりすることで、母親と赤ちゃんの体調を優先するようにしてください。
・命名書とは
命名書には「正式」と「略式」の2つのスタイルがあり、三つ折りにした奉書紙を使うのが正式な命名書、半紙や色紙などを使うのが略式の命名書です。
どちらも命名した人が書きますが、現在は名づけから命名書の作成までの大半を両親が行います。
かつては正式な命名書が主流でしたが、現在は床の間や神棚がない家庭がほとんどであることや、自分たちの好みで作ることができる魅力があることから、略式の命名書を選択されることがほとんどです。
では、略式の命名書から正式な命名書の順に書き方や注意点をご紹介します。
どちらも用意するものは筆(太いものと細いもの)、墨汁、墨汁入れ、下敷き、文鎮、そして半紙(略式の命名書)または奉書紙2枚(正式な命名書)です。
書道道具一式を命名書を書くためだけに用意するのは負担になりますので、半紙または奉書紙のみ準備し、筆ペンなどで代用しても問題ありません。
(略式の命名書)
参考画像をもとに、略式の命名書の書き方と注意点をご紹介します。
略式の命名書は市販の命名書や半紙の中央に命名、子どもの名前を書き、左側に子どもの生まれた日、右側には父と母の名前と続柄(長男、長女など)を書きます。
半紙のどのあたりに書くべきか不安なときは、事前に折り目をつけると安心です。
お七夜、命名式は古来より日本で大切にされている行事ですので、生年月日は元号で記載してください。
なお、略式の命名書で必ず書いてほしいのは「命名」「赤ちゃんの名前」「生年月日」の三点ですので、シンプルなデザインを希望される場合は参考になさってください。
略式の命名書を書いた動画も貼り付けておきます。
中央に書く命名、子どもの名前の二点のみ太い毛筆で書くことでとてもインパクトがある命名書に仕上がっています。
(正式な命名書)
正式な命名書、略式の命名書共に下記の動画で分かりやすく書き方を解説していますので、ぜひ参考になさってください。
正式な命名書は横二つ折りにし、さらに縦三等分に折り目をつけます。
折り目をつけた中央の真ん中に子どもの名前、右側に父親の名前と続柄、左に生年月日を書きます。
折り目をつけた左側に生年月日と両親の名前を書きます。
折り目をつけた右側の真ん中に命名と書きます。
すべて書き終えたら右側が上になるようにおり、もう一枚無地の奉書紙を用意し、命名書を包みます。
包み方は左、右、上、下の順となり、表に命名書と書いて完成です。
書くことが多いので、少しのミスで何度も修正が必要となり、時間を要することが多いです。
私の時は毛筆ですべてを書くことは無理だと悟ったので、筆ペンを用意し、さらに筆ペンで書く前に鉛筆で軽く下書きしておきました。
以上、正式な命名書と略式の命名書の書き方と注意点について書かせていただきました。
普段から書道セット一式を持っているご家庭のほうが少ないかと思いますので、筆ペンで対応したり、略式の命名書であればパソコンのテンプレートをダウンロードし、すべてプリンター印刷で対応したりすることもできます。
出産直後は何かと時間に追われますので、手を抜けるところは手をぬきましょう。
4.お七夜のお祝いは何をするのか?
お七夜・命名式では、命名書を書いて命名式を行ったあとに家族や招かれた人とお祝いお膳を囲み、さらに赤ちゃんと写真を撮ったり、赤ちゃんの足形や手形を記録として残したりします。
昔はお祝いお膳で用意するお赤飯は多めに炊き、熨斗紙に「内祝 赤ちゃんの名前」を書き、ご近所に配ったそうです。
こういった点から前もって命名書の準備、招待する人のリストアップ、お祝いお膳、赤ちゃんの当日の服装の準備が必要です。
里帰り出産中の方は祖父母と、自宅で育児中の方は夫や家族と相談し、無理のない範囲でお祝いするようにしましょう。
では、具体的にご紹介します。
命名書の準備に関しては先ほど触れましたので、省略します。
招待する人は祖父母、夫と妻の兄弟、普段から親しくしている友人までにあたりますが、夫婦のみでお七夜と命名式を行ったり、招待しても祖父母までだったりとこじんまりとお祝いをしている家庭が多いです。
母親の産後の体調を最優先して考えましょう。
招待された人は当日、お酒やお菓子などを持参したり、ご祝儀を持参したりしますが、お七夜・命名式に招待したときにお祝いお膳をふるまうことがお返しとなりますので、基本的に別途お返しは必要ありません。
気持ちばかりのお返しをしたい方は、「命名内祝」として、菓子折りなどを贈ると良いです。
お祝いお膳はお頭つきの焼き魚と赤飯を基本とし、それ以外に煮物や刺身や揚げ物などを用意しますが、仕出し料理を頼んだり、レストランを利用したりすることで手を抜いてください。
夫婦のみで自宅でお祝いする場合は、形にこだわらずに夫婦が好きなものを囲むスタイルでも問題ありません。
みんながどういったお祝いお膳を囲んでお祝いしているのか?少しのぞいてみましょう。
・古くからのスタイルを大切にしたお祝いお膳
お頭つきの焼き魚、お赤飯の他に和食を中心としたお祝いお膳を用意されています。
祖父母を招いてお祝いをする場合は、古くからのスタイルを大切にしたほうが良いかもしれませんので、事前に夫婦お互いに両親の好みを確認しておきましょう。
・古くからのスタイルを大切にしつつ、おしゃれな盛り付けに
お頭つきの焼き魚、赤飯といったメインとなるものは必ず用意し、他のものは現代風のメニューを加え、さらに全体的な盛り付けをおしゃれにすることで見た目の印象をぐんとアップさせています。
これをいちから用意するとなると手間がかかりますので、あくまでも参考の一例としていただき、無理のない範囲でお祝いお膳を用意するようにしましょう。
お赤飯のみ写真のように盛り付けに一工夫加えるだけでも印象は変わります。
・普段から慣れ親しんでいるメニューや豪華メニューで食べやすさを重視する
メインとなるお頭つきの焼き魚を用意し、あとは生野菜のサラダ、蟹、お刺身などどの世代でも食べやすいものを中心としたお祝いお膳になっています。
大皿料理になっている点も、招待されたお客様が自分の好みで選ぶことができるので良いです。
個人的に、取り皿として使うお皿やコップは使い捨ての紙製のものが洗い物が少しでも楽になるのでおすすめです。
100均でもわりとおしゃれなデザインのものが多いので、事前にチェックしておいて下さい。
・すでに上の兄弟姉妹がいる場合は子ども向けのメニューも考慮に入れて
すでに上の兄弟姉妹がいる場合、定番のスタイルのお祝いお膳を用意すると子どもが食べやすいメニューがほとんどないかもしれません。
子どもが食べやすい洋風のメニューも取り入れてあげるように考慮してください。
仕出し料理を注文される方は、子ども向けのお弁当などもありますので確認してください。
じっさいのお七夜のお祝いお膳をご覧になることで、古くからのスタイルを大切にしつつ、家庭ごとに食べやすいメニューにされていることがお分かりいただけたかと思います。
ご招待したお客様をおもてなししようと張り切ると、キリがありません。
大変な時期ですので、いかに準備から後片付けまでを楽に行うかを重視しましょう。
5.まとめ
一つのお祝いの中には枕引き、お七夜、命名式と異なる呼び方があり、奥深い由来があることに触れさせていただきました。
その上で、お七夜・命名式にどういったお祝いをするのか、そのために命名書やお祝いお膳など用意してほしいものに関してご紹介しました。
赤ちゃんが生まれてすぐは母親の体調が安定していませんので、無理のない範囲で赤ちゃんの成長を記録に残してください。
楽できるところは楽するのは 子育てをする上でも非常に大切です。
子どもに伝えたい年中行事 萌文書林編集部 萌文書林 1998
大辞林
赤ちゃん・子どものお祝いごとと季節のイベント 監修 岩下宣子 河出書房新社
家族で楽しむ子どものお祝いごとと季節の行事 新谷尚紀 監修 日本文芸社