エンゼルケアの基礎知識や目的、必要物品、方法・手順、注意点

病院では、元気に退院される方だけではなく、終末期やターミナル期で看取りとなる方もおられます。

エンゼルケアは人生の最期を迎えた患者への最後のケアであり、とても重要な看護です。

看護の世界で仕事をしているなら、是非できるようになっておきたい最後のケア、エンゼルケア。ここではエンゼルケアの基礎知識や目的、必要物品、方法・手順、注意点を再確認していきます。是非活用してみてください。

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1.エンゼルケアについて

1-1.エンゼルケアとは

エンゼルケアとは死後処理のことをいいます。

点滴や医療機器の片づけ、体・頭髪などのシャワー浴、死化粧、衣服の着替えなどが行われ、亡くなられた方を生前の姿に近いかたちで送り出すためにおこないます。

1-2.エンゼルケアとエンバーミングの違い

エンゼルケアとエンバーミング

エンゼルケアは消毒や化粧など遺体のケアを中心としており、火葬が終わるまでの2~3日遺体の保存状態を保つためのいわば「応急処置」となります。

エンバーミングは遺体の殺菌・消毒および腐敗を防止する処置を施し、遺体の保存期間を劇的に延ばす処置になります。

孤独死により時間が経って見つかった場合や事故で遺体の損傷が激しい場合などに遺体の復元をするために行われる事もあります。

2.エンゼルケアの目的

エンゼルケアの目的は、患者の尊厳を守る、家族の心のケア、感染予防の3つがあります。

2-1.患者の尊厳を守る

患者は病院での長い闘病の末に亡くなることが多く、元気な頃の外見とはかなり異なっている場合が少なくありません。

また、点滴やドレーンなどが挿入されていたり、長い間入浴できなかったなどの事情で、身体や着衣が汚れていることもあります。

化粧を施したり、闘病の跡や傷口をカバーしたりすることで人生の最期にふさわしい姿に整え、人間としての尊厳を守ります。

2-2.家族の心のケア

エンゼルケアの目的

闘病生活が長い人はやせ細って頬がこけていたり、黄疸が出ていたり、入院前とはかけ離れた姿になっていることが少なくありません。

患者の最後の姿の思い出が、そのような姿であることは家族にとってとてもつらい事であり、死をなかなか受け入れることができません。

エンゼルケアによって、生前の元気な姿に近づけることは家族の心のケアにもつながるののです。

また、死後の処置に関わり「自分の手で最後のケアをしてあげられた」という納得感や満足感が、患者の死を受け入れる大事なプロセスになります。

2-3.感染予防

患者の体液や傷口などから発生した病原体が遺族や葬儀業者、他の患者に感染することを防ぐためにもエンゼルケアは必要です。

治療による注射痕や創部の処置をおこなうことで血液や浸出液の排出を防ぎ、綿などを使用して排出物の流出を防ぐことにより、感染の可能性のある物質との接触を防がなければなりません。

感染予防

3.エンゼルケアの方法・手順

3-1.必要物品

エンゼルケアの必要物品は以下のようなものになります。

目的

必要物品

感染防御

ディスポーサブル手袋、プラスチックエプロン、マスク

創傷処置

青梅綿、脱脂綿、ドレッシング材、ガーゼ、テープ、防水シート、割り箸、絆創膏

整容

浴衣、シーツ、カミソリ、メイクセット、T字帯、ヘアブラシ、タオル、お湯、消毒液

3-2.手順

エンゼルケアにはいろいろな手順がありますが、ここでは一般的な流れを紹介していきます。

自分なりに大事な点、大切にしたい思いを確認しながらやり方を吸収していきましょう。

①死亡確認後、家族との時間を作る
医師によって死亡確認が行われたら、すぐにエンゼルケアを始めるわけではありません。

10~15分を目安に家族と患者を残して医師と看護者は席を外します。

この時に人工呼吸器など外れる医療機器は外し、点滴の滴下は止めましょう。

この間に、看護師はエンゼルケアのための必要物品やエンゼルケアを行うための個室を用意しておきます。

手順

②挿入物の抜去
お別れの時間の後は、家族に一旦退室してもらいエンゼルケアを始めます。

まずは、挿入物を抜去しましょう。

点滴を抜去した後は、血液を絞り出し圧迫固定をします。

必要であれば、ドレッシング材を貼付し、褥創などの創傷がある場合は新しいドレッシング材に交換します。

気管切開痕やドレーン抜去痕は、分泌物の吸引を行った後に綿や高分子吸収剤を詰め縫合します。

③排泄物の処理
腹部を圧迫して、排泄物を排出させます。

胃の内容物がある場合には、側臥位にして、胃を圧迫し、内容物を吐かせます。

④口腔ケア
歯ブラシやガーゼ、スポンジ等を使って、手早く口腔ケアを行います。義歯がある人は、口腔ケアの後にきちんと装着させてください。

腐敗やそれによるニオイの発生を抑えるために、口腔内の消毒を行います。

ガーゼと消毒液を使用して歯と歯茎、舌、口腔内壁の汚れを落とした後、口腔内の水分を十分に取り除きます。

義歯の有無を必ず確認し、義歯の場合は口腔ケアの後にきちんと装着させましょう。

口腔ケア

⑤全身清拭・陰部洗浄
全身清拭と陰部洗浄を行います。

この時、排出物や体液の流出を防ぐため、鼻や口、耳、肛門、膣など腔部に脱脂綿を詰めることもありますが、最近はあまり綿を詰めないようにしている病院が増えています。

これは、綿を詰めるよりも冷却したほうが排泄物や体液の漏出に効果があること、綿を詰めても栓の代わりにはならないことが分かったからです。

鼻出血が止まらないなどの場合は、綿を詰めることもありますが、家族に一言添えておくと良いでしょう。

⑥着替え
病院で用意した浴衣、または家族が用意した服に着替えさせます。

浴衣など和装に着替える場合は、左前・縦結びにするのが基本です。

着替え

⑦整容
髪型を整え、化粧を行います。男性はひげを剃るようにしましょう。

メイクはどのように行うか、家族に一言相談すると良いと思います。男性でも顔色が悪い時には、薄くファンデーションを塗りますが、男性にメイクをすることに抵抗を感じる家族もいます。

また、女性の場合は、生前に好みのメイクがあるなど、こだわりを持っていることがありますので、家族に相談すると、トラブルなく家族の心のケアにもつながります。

整容

⑧合掌
胸の上で手と手を合わせ合掌させます。

合掌させたら硬直するまで紐や合掌バンドを使って固定したりもします。

⑨シーツをかける
身体にシーツを、顔に白布をかけて、最後に処置者が合掌して終了となります。

必要物品を片付け部屋を出ます。

ご家族へエンゼルメイク

病院で亡くなった場合でも、エンゼルケアは、死後の処置になりますので、健康保険の対象外になります。

金額の目安としては3,000円から15,000円ほどになります。

病院の方針により、無料で行なっているところもあります。

死後の処置

4.注意しておきたいポイント

4-1.コミュニケーションの充実

エンゼルケアは家族の希望を最優先にして行いましょう。

「寒そうだから冷却はしたくない」、「死者らしくしたくないから手を組ませるのはやめてほしい」など、亡くなったと頭ではわかっていても、生きているときと同様に、遺体に対して「痛くないか」「つらくないか」「寒くないか」「苦しくないか」などというように気遣う場合が多いです。

特定の宗教がある場合は、宗教の決まりごとにも配慮しなければいけません。

遺族の希望を尊重するために、コミュニケーションをしっかりとっていく必要があります。

また、エンゼルケアへの参加を希望される場合は、感染予防のために挿入物の抜去や創傷の処置をした後に、清拭から参加してもらうようにしましょう。

遺族とのトラブルや行き違いを防ぐため、またさまざまなご希望を引き出すためにもエンゼルケアを進めるにあたっては、コミュニケーションがとても重要になります。

コミュニケーション

4-2.黄疸が強い場合には遺族に伝える

黄疸が強く出ている場合には、遺族に伝えておきましょう。

黄疸は死後24から36時間ほど経ったころ、つまり、病院から退院して家に戻られてから肌色が変化します。

濁黄色から濁った青~緑の色に変わり、死後36時間から48時間ほどたつと、今度は、緑色に灰色も混じったような色に変わっていきます。

遺族が驚かないように、皮膚の色が変わること、エンゼルケアでは厚めにカバーすることを伝えておきましょう。

4-3.瞼が開いたままの場合は、二重まぶた用の糊

長時間の臥床安置により皮膚が下方に引っ張られていたり、眼窩の脂肪や水分が失われたことなどで、遺体のまぶたが閉じないことがあります。

ガーゼやティッシュを瞼に挟んで閉じるなどの方法がありますが、目の中の異物を入れる行為は家族が抵抗を感じることもあります。 

そのため、瞼を閉じる時には、二重まぶた用の糊を使うと、自然に瞼を閉じることができます。

もともと人体に使用するものなので受け入れやすく、さらに糊には柔軟性があり、時間経過によって変化が生じてもひきつることがなく後からやり直すこともできます。

病棟に1つ置いておくようにすると良いでしょう。

瞼が開いたままの場合

5.昔と現在のエンゼルケアについて

エンゼルケアの処置は昔と現在では変化してきています。

・綿をつめる

以前は、鼻腔や口腔、耳、肛門に綿をつめるのが主流でした。
しかし現代は大量に吐血をしたり、排泄物などが退院後に、大量に出る可能性がある場合以外は、無理な綿をつめずに、遺体の腐敗を少しでも遅らせるために、冷却を優先していることが多いです。

・手首を組む

以前は手首を縛って組ませるよう固定していました。
しかし現代では、無理に組むことで変形や変色する可能性があるので、自然な形で体の横やお腹の上などに、腕を置くようにしています。

・口を閉じるために、顎を縛る

顎を縛り圧迫をすることで、一部浮腫が出てしまうことがあります。
縛ることはしないで、口が開いてしまう場合には、枕を高くし、顎の下にはタオルを丸めて入れるように対処します。

・全身清拭は、消毒液

以前は消毒液を入れた水で体を拭いていましたが、消毒液は皮膚の乾燥を促してしまうので、今は行いません。

口を閉じるために、顎を縛る

この他にも、顔に布をかけるのか、処置を家族も一緒に行うかなど、以前に比べ家族の意向をふまえた柔軟な対応へ変化しています。

6.さいごに

臨床の現場において、患者の死は避けて通ることはできません。人の死は精神的なショックがとても大きなものです。
それでも看護師は気持ちを切り替え働かなければいけません

患者の死が業務の一貫とならないように死と向き合うたびに、命について考えること、自分自身の看護について考えることは大切なことです。

「エンゼルケア」は患者の一番近くで、ご冥福をお祈りできる、最後の「看護」です。

自分自身のエンゼルケアを今一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

臨床の現場